論文が載るまで

とタイトルを書いたらば、「論文がノルマで」と変換されてしまって笑えないなぁ、などと思ってしまったりして。いや、ノルマじゃないですよ。ここは。
2009-06-05 - chalk-less::weblog::thecla」で書いたとおり、最近、論文を無事、出せたわけですが、その過程に、いろいろネットのリソースにお世話になったので、ここに英語への向き合い方について、まとめて書き記そうかと思います。すでに論文を何本も書いた人にとってはえらそうな、ですが、これから書く人に向けて。
いや、本心は、今のハチロクを見ていると、ちゃらっと海外に視察っちゅうかインターンみたく行ってしまって、英語が堪能なんじゃないか、釈迦に説法だろう、とか思ってるんですよ。

大枠

  • とりあえず、1本「自分で」書いてみること

とりあえずは、1本「自分で」書いてみることです。「自分で」と書いたのは、修士のときのラボでは、教授が論文を書いていたからですが(というのも、だいたい論文を出すときは卒業が間際に迫っているときなので、本人にやらすと、とてつもない英語を書いてきて、結局、もっと苦労して赤を入れるはめになるからと言っていましたが)。1本 論文をがっぷり四ツで書いてみれば、自然と英語に向き合って、2本目からは格段に楽になると思います。たとえば、単数形/複数形とか。たとえば冠詞とか。たとえばどういう動詞をとるか、とか。たとえば、どういう前置詞をとるか、とか。

  • 常に論文でどこを占めるか考えながらデータを出す

これも、1本書いたからだと思うのですが、マテメソでこれは書いた方がいいだろうな、これはいらないだろうな。そうすると、Resultsはこういうのを書くことになるな、これはfigureになるな、とか思いながらデータを出すようになった気がします。

  • 必要なソフトを使うこと/使わないこと

まずは、文献管理ソフトを使うこと。EndNoteとかReference Managerとか。必要な文献リストを作るのはもちろん、体裁を整えて、Referenceセクションをつくってくれるとか、本文中の数字なりauthorなりのreferenceのところを自動で変換してくれるとか、こういうのに時間を割くなら、その分、ソフトに割いた方がよい。
それから、論文自体は、今ならGoogle Docsで書くのがいいかと思います。そもそもネットにつながれば、どこでも仕事できますし。今なら、(一度、ネット上のリソースと同期させれば)オフラインで論文を書けますし。まぁ、下に書いたようなネット上のリソースは使えないんだけれども。で、rtfで吐いて、上の文献管理ソフトでReference情報をくっつけて、共著者とかに送るわけです。

論文を書くとき

  • 最初はメモ書きからかねー(できれば英語で)

自分の場合、書きたいことをまずは箇条書きから始めた気がします。で、書くべきことを筋だてる感じ。本当は、こういうのは英語で書くべきで、日本語で文章を書くなんて言語道断なくらいかと思います。日本語で文章を書くと、それをそのまま英語にしそうになるので。日本語書くときと、英語を書くときは根本的に組み立てる文の思い至り方が違うんですよね。

  • コピペからはじめる

論文を書くぞ、と思いながら、普段の論文読みをすると、この表現は使えるかも、というのに気づいたりする。昔は、そういうのを抜き出してストックしていたけど、結局、続かなかったなぁ。。。スクラッチから(ようするに一から)英語を書くと、この文章で大丈夫なのか、ひたすら不安になるので、まずはあちこち切り貼りで。

  • まずはマテメソ

マテメソは、ある意味、論理とか考えずにあーしたこーした書けるし、それこそ、コピペで書き始めやすいところなので。どこかの読んだ本にもあったけれども、マテメソ書いたら、それに対応してResultsも書き始められる、と。そうすると、どういう図がいる/いらないとかなってきて、DiscussionとIntro.に展開さす、というのがスジといえばスジ(実際はあちこち浮気しながらなのだろうけど)。

  • 数字を出すと説得力が増す(気がする)

マテメソでちまちまやったことを書いて、Resultsでは、ちゃらっと、こうして、こういう結果を得ました、という感じに。このとき、どんだけのなんちゃらを得たとか、どのくらい変わったとかそう書くと、いかにもResultsっぽくなってよい気がする。

  • 細かい英語を気にするくらいなら英文校閲にまわしている時間を長くしろ

どうせ、最後は英文校閲に出すのだから、冠詞とか複数形とか細かいところはこだわらなくていいと思います(あくまで細かいところですが)。が、〆切間際で、英文校閲に1週間のところ3日でやれ、とか言うと、そこは時間と質と明らかに比例するので、どうせ直されるのだから、さっさと英文校閲に出して、プロにじっくり見てもらうのがよいと思います。一応、書いておくと、英文「校閲」なので、論理構造とか話の展開とか、ばっさり直されることはないですね。

英語でのワザ

  • 裸の名詞は気をつけろ

そもそも文章中で名詞が複数形でもない、冠詞もないなんてことはほとんどない(本当は全くと言ってない、かもしれんが)。そういう名詞があったら、キモチワルイと、そう見えるようになるべきかな、と。

  • 「たとえば〜のような」の訳

すぐに for example とかやってしまうのだが、あんまり使わないというか、使い勝手よくない、とわかった。

    • 説明 such as 具体例
    • 説明 including 具体例
    • 説明: 具体例
    • 説明, e.g., 具体例
    • 説明 like 具体例 ← あまり見た印象ない
    • ※ ここで具体例は複数のものを書くことを想定している。
  • 代名詞をつかうとカッコいい

代名詞といっても、it とか that とかで受けてしまうと曖昧模糊として文章が混乱するもとなので「associations between genes and diseases → these associations」くらいの受け方がスマートな気がする。

お世話になったサイト

ライフサイエンス辞書の特に共起検索。ある語の前1語は何がくるか、とか、そういうのが得られる。ここで出てくる論文は、英語ネイティブの人の書いたものをピックアップしているので、日本人特有の間違いみたいなものは排除されている。

言わずもがな

言わずもがな

英語の微妙なニュアンスの違いとか、どういう前置詞とるとか、そういうのを知るのには、英英辞典が有用。

今は、辞書をひきひき、というのもオンラインですよ。ただ、前置詞どうこうとかそういうのはあまりわからないので、参考、という気はする

お世話になった本

ライフサイエンス英語類語使い分け辞典
ライフサイエンス系論文についての類義語辞典。ざっくり言うと

示す:show, indicate, exhibit, display, represent, ...

な感じ。
多くは、一般的な語(ライフサイエンス以外でも使うのでは)か、実験系の語(誘導する、切断する、抑制させる)な感じで、インフォ系の論文には必ずしもな部分もあるが、ないよりははるかにまし。この日本語を英語にすると何を使うんだろう、とかいうときに、普通に和英とか使うと一般的な語が出てくるので、こういうのがあるとよい。ただ、何も考えずに使うのでなくて、先に書いたLSDの共起とか、Google Scholarとかで使い方を確認しながら使うのがよい気がする。っちゅうか、この本に、どういう前置詞をとって、何件みたいのが載っているので、それを参考に。受動態で使うとか、こういう前置詞を伴うとかそういう使い方かもな。(まわりくどい

英語ライティングルールブック―正しく伝えるための文法・語法・句読法
平易に言うと文法書ですが、きっちりいうと句読法、もっときっちり言うなら、後述するstyle bookみたいな本です。
個人的に、もし、どれか1冊すすめるなら、どれか、と問われたら、この本を挙げる。英語を書く運命にある人は、こういう本とか、次のような本とか、きっちりした頼れる句読法の本を1冊 持つべきだと思う。(それか体得するか)
日本人はとかく文法にこだわりがちですが、長々と英語をやったわけだし、そもそもコピペで文章を組み立てるのが最初なので、そんなに凝った文法書はいらないと確信しています。そもそも、論文は基本、過去形でしょう(セクションにもよりますが)。しかしながら、英文校閲に出すと、冠詞と単数/複数と、そして句読法が主に直される、というか、そこでだいぶニュアンスが変わるので、そこは意識するべきかな、と思います。句読法ってようするに、テン/マルで、カンマ/ピリオドですが、日本人ってこう書いちゃうんだよねーみたいなことが多くあるのを感じました。ここの例文をひくと、

○ But I do know that he is not happy with his new job.
× But, I do know that he is not happy with his new job.
☆ Please ignore this request if you are not interested.
○ If you are not interested, please ignore this request.
× If you are not interested please ignore this request.

あー、文頭のButの前には、カンマを打ちそう、などと思ったり。

A Manual for Writers of Research Papers, Theses, and Dissertations: Chicago Style for Students and Researchers (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)
前のやつの英語版。というか、向こうの人って、こういうのを必ず1冊もっているんだよね、きっと。この手の本は、実は何冊もあって、Amazon行って、「こんな商品も」を見るとわかると思うのだけれども、この手の洋書はしこたまあります。こいつは、たまたま別のキャンパスに向かうバスの中で前に座っていた人が持っていたので買ってみた、というだけで、多分(いや、きっと)この本よりいい本はあるでしょう。
上に比べるともう少しきっちり書いてあったりするのだけれども、普段は、上ので十分かな、と。上ので載っていないものを参考にしたりしました。
研究の組み立て方とか、図の描き方とか、そういうのも載ってます。多くが割かれているReferenceの書き方はいらないけど、安い(か、円高で安かった)ので、許す、ということで。

お世話になったというほどではないが、参考になった本

日本人の英語 (岩波新書)
けっこうベタな。冠詞のところと副詞のところは役立ちました。

日本人のための医学英語論文執筆ガイド―Thinking in EnglishでネイティブレベルのPaperを書く
イントロだの、マテメソだの、Resultsだのの各セクションでのポイントが箇条書き(というか、解説文)で書かれている。単語の使い分けみたいなものも書いてある。cover letterの文例とかがあったりするのは、よいかも。ただ、2008年に出た割に、なんか世界が違うな、とか思う。それは、きっと医学向けだからなんだろう。

インターネット時代の英語医学論文作成術―プロが使っている究極のワザ
ここはこうしましょう、ああしましょうみたいなことがさまざま書いてあって、いくつかはなるほど、と思わせるものが。きちんと構成を考えて、とか、結論からイントロへ、みたいなのは、ここから学んだ気がします。
とまぁ、つらつらえらそうに書いたわけですが、参考になれば幸いです。cover letterの文例とか、editorとのやりとりとか、そういうのって、自分はネットで文章とか調べたので、そういうのもここで(恥を忍んで)発信するといいのかもしれないですねぇ。